本のはなし 10

gogoemipon2005-05-14

[BOOKS] ジュゴンのはなしです。長くなりましたが読んでいただきたいです。



  • 6562648">「ジュゴンの海と沖縄」ー基地の島が問い続けるものー



鳥羽水族館にセレナちゃんというジュゴンがいる。ぷっくりしたカラダ、愛らしいヒトミ、にこっとした口元、どこをとってもトリコになる、わたしのだいすきな動物のひとつだ。ジュゴンは70年ほどの寿命があるが繁殖力は弱く、出産出来るようになるまで約10年、一度に一頭で生涯出産数は3〜4頭とオランウータンとほぼ同じである。現在では10万頭しか生息していないと言われレッドデータブックに載せられている絶滅危惧種



本書は生息域の北限とされる沖縄のジュゴンの現状を知らせてくれる。1996年、沖縄普天間基地返還が合意され日米特別行動委員会の最終報告では11施設が返還されることになった。が、うち7施設は県内移設が条件となり、普天間の代替地は何と沖縄県の自然環境保全区域ランク1とされる名護市辺野古沿岸域となった。ここには1957年に建設されたキャンプ・シュワブと弾薬庫があり、この沖合に海上ヘリポートを建設するのだ。そしてこの辺野古沿岸部が生息数50頭という北限のジュゴンがもっとも多く目撃される「ジャングサヌミー」ジュゴンの草の海、と呼ばれる場所である。



沖縄の基地問題は様々な複雑な政治・経済背景があることは周知の通りだが、絶滅寸前の海牛保護はそれとは別に地球環境への保護の大きな問題だし、本書では「自然科学的見地からの環境影響評価だけでなく、このような海域を失うことが地域で生きる人々にどのような影響を与えるのか、社会科学的な環境影響評価を行うべきだ」と訴える。ジュゴン保護だけでいっても2000年10月、IUCN(国際自然保護連合)の世界会議においてWWFジャパン、日本自然保護協会などの6団体が出した「沖縄島およびその周辺のジュゴンノグチゲラヤンバルクイナ保全に関する勧告」は多くの参加国、団体代表の支持を受け、全回一致で採択されている(日米両政府は棄権) オーストラリアのグレートバリアリーフは世界で最もジュゴンが生息する地域で16もの保護区を設けて保護に取り組んでいる。沖縄では基地建設による影響だけではなく山地開発、森林伐採土地改良事業などの赤土流出で海を破壊している。東京というモノにあふれ情報にあふれた都市に住み、沖縄は海がきれいだから不便でも構わない、経済が弱くても仕方がない、というのはエゴだけれど、少なくとも1997年の名護市民投票で過半数の人々が辺野古海域基地建設に反対票を投じている。



ジュゴンの住む海が自分の国にある、という素晴らしさを遠く沖縄から離れて生きる人々にとっても誇りにしたいと思う。東京湾にアザラシが来た、クジラが来た、とテレビでは大々的に報じ、見物人が集まる。わたしはこどもに「いつも見られるわけではないけれど、沖縄にはジュゴンがいるのよ」と教えたい。オットとこの辺野古の話をするとき、常に言い合うのは「人間がやってはいけないことがある、とりかえしのつかない事がある、失われたものは戻らない、手を付けてはならないものがある」ということ。離れた場所で出来ることといえばジュゴン保護キャンペーンセンター(SDCC)ジュゴン保護基金委員会の活動を支援し、ささやかに会費という形で応援する、とか、こういう場でいろいろな人にお知らせする位しかないけれど。

この本には政治社会的諸問題、沖縄の自然の現状、ジュゴン保護のための行動についてと共に辺野古のすばらしさを伝えるオジイ・オバアたちの話も載っている。すばらしい「宝の海」だったのだと伝わってくる。



ジュゴンデータブックもぜひ手に取ってみて欲しい。ジュゴンの写真満載で詳しい生態や他の海牛類の紹介など絵本のように作られていて、民話や地元の人の談話もあり。折り紙のジュゴンの作り方、「パラパラジュゴン」などあって、こどもにも楽しいはず。



今日の一枚  「うむ」